前回はポートフォリオのリスクリターン曲線がどういう形をしているのか、相関係数を動かして確認しました。
bananarian.hatenablog.com
今回は安全資産も踏まえたポートフォリオについて考えていきます。
安全資産とは何か
そもそも安全資産とは何かについて説明します。安全資産とは要はリスクがほとんど0で収益を出すことのできる資産のことを指します。リスクがものすごく小さいわけなので普通はそこから得られるリターンもごく僅かなものとなります。
安全資産の例
例えば、日本国債は安全資産であると言われています。大きな価値の変動もなく、日本が急に財政破綻するようなこともあまり考えられないためです。他にも銀行預金も安全資産に入ります。あくまで銀行は倒産しないだろうという見込みのもとになりますが....
安全資産を考慮した投資
仮に安全資産のリターンが0.01だったとします。この安全資産のリターンのことをリスクフリーレートとか呼んだりします。
仮に2つの資産に分散投資するとして、まず元手の80%を2資産の分散投資にあてて、20%は安全資産に投資しようとか、元手の50%は分散投資にあてて、残り50%は安全資産に投資しておこうといったことを考えるわけです。
何故安全資産に投資をするのか
端的に言うとリスクの回避です。例えば各企業の株に投資をしていたとして、もし世界大恐慌が起こってしまったとしたら、ほぼすべての株の株価が大暴落します。こればっかりはどうしようもありません。確率的にはほとんど起きない話ですが、偶然起きてしまったときに大変な目にあってしまいます。
そこで安全資産も持っておこうというわけです。当然そんなリスクを考慮してても仕方がないという方は全ての資産を投資に回しても理論上は問題ありません。
つまり、安全資産にどれくらいの割合投資して、リスクのある資産にいくら投資するのかは各人の好みになります。これを経済学の用語で効用、又は効用関数と呼び、数学的に定式化することもできます。が、今回は省略します。
投資可能集合を図に表してみる
前回リスクリターン曲線を図に表しました。これに安全資産も加えたらどのような図になるでしょうか。
数値例をあげたうえでそれをプロットしてみます。
資産1のリターンの期待値→0.15
資産1のリターンの分散→3
資産1のリターンの期待値→0.05
資産2のリターンの分散→1.2
資産1,2のリターンの相関係数→-0.5
リスクフリーレート→0.01
今回は空売り・借入等は考えず、安全資産も借り入れが出来ないものとする。
緑色の点が,つまり安全資産です。リスクが0,リターンが0.01となっています。
青い点、黄色い点が資産1,資産2になります。そして空売り、借入は不可なので、この2資産にどのような割合で投資するかに従って曲線が引かれます。この曲線の説明は前回の記事参照。
そして今回は安全資産とリスクのある資産に対して適当な割合で投資を行うので、曲線上の点と安全資産を結ぶ直線上も投資することが可能になります。
そういうわけなので、投資可能な領域は図の水色で塗った部分(境界を含む)となり、上のような図となるわけです。
なお、赤い点、つまり安全資産を切片として引いたリスクリターン曲線に対する接線が成す接点を接点ポートフォリオと呼びます。
この接点ポートフォリオは投資理論において重要な位置づけがあるのですが、それについてはまた今度お話します。
どこに投資すべきか
さて、今投資可能な領域は水色全体です。結局どの点で投資するのが合理的なのでしょうか。
例えば黄色の点を見てみると、黄色の点の真上に水色の領域があります。
これ、よく考えてみるとわかりますが、黄色の点と同じリスクにもかかわらず、黄色の点よりも期待リターンの大きい投資方法が存在することを意味しませんか?
つまり、何が言いたいかというと黄色の点の投資方法は絶対に行うべきではないわけです。
これを他の場所についても同様に考えてやると、投資すべき場所は
緑色の点から赤色の点までの直線上の点か、赤色の点から青色の点までの曲線上の点ということになりませんか。
この点のうち、じゃあ実際に投資するにあたってどの方法を取るかは先ほど説明した好みの問題ということになります。
色々な状況によって図は変わることに注意
分散投資の基本的な方法は今説明した通りになりますが、実際の状況は色々あります。資産を空売りする、借入れる、安全資産を借り入れたり貸し出したりするにあたって金利が発生するためリスクフリーレートが上のような一点にならない等々あります。
状況に応じて図は変わるということ、それによって最適なポートフォリオが変化するということに注意が必要です。
トービンの分離定理
既に投資理論について勉強している方だと先ほどの図に違和感を覚えたかもしれません。「おいおい、トービンの分離定理に反しているぞ」とツッコミが飛んでくる恐れがありますが、今回は問題ありません。
まず、トービンの分離定理について簡単に説明します。
トービンの分離定理とは
安全資産と接点ポートフォリオを適当な割合で投資することで任意の効率的なポートフォリオを作ることが出来る
という定理です。
しかし、そうすると先ほどの図にあてはめるとおかしなことが起こって、
赤色の点から青の点までの曲線上の点は投資対象にならないという話になるわけです。
しかしそのトービンの分離定理ですが、安全資産が借入できる場合でないと成り立ちません。今回は安全資産を借入れることを許していないためこのような状況が起こります。
でもまあ、接点ポートフォリオと安全資産の適当な割合を取れば効率的なポートフォリオになることは間違いないので、
投資家は投資対象を考えたら、接点ポートフォリオを頑張って探してやれば、それと安全資産を適当に組み合わせれば良いという話は出来ますね。
Rのコード
今回の図ですが、描くにあたってRを利用しました。汎用的なコードをかくのが面倒だったので、値がゴリゴリ入っていて、関数化もしてないので全く実用的ではありませんが、とりあえずメモ程度に置いておきます。
#資産1の期待値(ex),分散(var),標準偏差(sd) sisan1_ex=0.15 sisan1_var=3 sisan1_sd=sqrt(sisan1_var) #資産2の期待値(ex),分散(var),標準偏差(sd) sisan2_ex=0.05 sisan2_var=1.2 sisan2_sd=sqrt(sisan2_var) #投資比率 w1=seq(0,1,0.01) w2=1-w1 #ポートフォリオの期待値(ex) port_ex=w1*sisan1_ex+w2*sisan2_ex #資産1,2の相関係数 ro=-0.5 #ポートフォリオの分散(var) port_var=(w1^2)*sisan1_var+(w2^2)*sisan2_var+2*w1*w2*sisan1_sd*sisan2_sd*ro #安全資産 r_f=0.01 png("1.png") plot(c(0,2),c(0,0.2),type="n",xlab="risk",ylab="return") points(sqrt(port_var),port_ex,type="l") points(seq(-0,2.0,0.5),r_f+0.12*seq(-0,2.0,0.5),type="l") points(seq(-0,2.0,0.5),r_f+0.081*seq(-0,2.0,0.5),type="l") points(seq(-0,2.0,0.5),r_f+0.036*seq(-0,2.0,0.5),type="l") dev.off()